京都大学大学院薬学研究科ゲノム創薬 京都大学21世紀COEプログラム「ゲノム科学の知的情報基盤・研究拠点形成」事業担当者
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GPCR
ヒトゲノム計画により、ヒトの遺伝子総数は約3.3万という予測がなされたが、この中で細胞情報認識機構に基づくゲノム創薬において、最も実績があり多くの研究者、企業が取り組んでいる標的分子ファミリーがG蛋白質共役型受容体(G-protein coupled receptor、GPCR)を代表とする薬物受容体である。ホルモンなどの生理活性物質の多くは、受容体に結合することにより細胞に情報を伝達している。中でもG蛋白質と共役して情報伝達する受容体群がG蛋白質共役型受容体(GPCR)である。これらの受容体は細胞膜を7回繰り返して貫通するという特徴的な共通構造をもっているが、これまでは、作用する物質(リガンド)が先に見つかっていて、次に対応するGPCRが同定されてきた。最近、この疎水性アミノ酸クラスターが7回リピートする特徴的な構造を手掛かりに、ゲノムDNAやcDNAの配列解析から直接GPCR遺伝子をin silicoで見出すことが可能になってきた。しかしこれらの多くはリガンドが未知であり、「オーファン受容体」とも呼ばれる。ヒトゲノム全体でGPCRは700から800近く存在している可能性が示唆されているが、リガンド既知の受容体が約250程度であり、残りはオーファン受容体である。したがってGPCRが関与している生理現象の大部分が未開拓の領域といえる。一方、GPCRは疾患と関連している場合も多いので、酵素と並んで、これまで医薬品の研究開発のための主要な標的の一つであった。実際、現在市販されている医薬品の中で受容体を標的とする薬物は非常に多く、その対象疾患の領域は中枢神経系、内分泌系、循環器、呼吸器、泌尿器、消化器、生殖器など多岐にわたっている。従ってオーファン受容体の研究は多様な生理現象の調節機構を理解するための基礎研究としてだけでなく、応用研究の面からも極めて重要であり、この様な状況から産学を問わずこの研究領域では熾烈な競争が展開されている。
GPCRとゲノム創薬
従来薬の作用を考える上での概念であった受容体やイオンチャネルの存在が分子レベルでその実体が同定され、更にその受容体、チャネルを介したセカンドメッセンジャー、転写因子、一群の遺伝子活性化といった細胞内の様々な情報伝達経路を通じて細胞生理作用がコントロールされる“細胞情報認識”の分子メカニズムの解明が20世紀後半飛躍的に延びた。この基礎研究に基づき、シグナル分子、分子間相互作用、情報伝達機構を標的とする合目的な創薬アプローチが可能となり、細胞情報認識を特異的に制御して疾患を引き起こす生理活性を調節するための治療法に関する研究が活発になされ、現在世界の臨床で頻用されている薬物の大半の部分を占めるほどの成功を納めている。今後もこの方向の創薬アプローチは引き続き進展することは明らかであり、また細胞情報認識機構に基づく各種の技術開発と相まって、ますます活発な創薬研究開発が期待されており、細胞情報認識機構に基づくゲノム創薬は、ポスト・ゲノム時代のFunctional Genomicsにおける創薬アプローチの良いモデルである。

米国ベンチャー企業、製薬企業を中心に、GPCR創薬には多くのアプローチが試みられている。その手法は、バイオインフォマティックス、構造生物学などによるいわゆる“ DRY BIOLOGY からのアプローチ”と従来の分子生物、細胞生物学研究に基づく、蛋白、細胞、個体レベルでのいわゆる“ WET BIOLOGYからのアプローチ”大きく分けられるが、これらの手法は別々のものではなく相互に補完することで創薬ゴールを目指している。

"DRY BIOLOGYからのアプローチ"は膜蛋白の放射光解析などの構造解析等が技術的に克服され情報が集積しつつあり、近未来で生物情報と統合されることが期待される。他方、“WET BIOLOGYからのアプローチ”の中で、個体レベル、細胞レベル、蛋白レベル、分子レベルにおける機能解析でそれぞれ注目すべきものがある。たとえば個体レベルでは、モデル生物(酵母、遺伝子改変動物、線虫など)を用いた遺伝子機能解析や、薬物スクリーニング系があり、細胞レベルでは生体高分子の可視化技術であり、各種蛋白の蛍光標識技術や免疫組織技術(蛍光指示薬の向上、各種細胞オルガネラに関するマーカー蛋白の同定など)及びその高感度検出系、観察技術(共焦点顕微鏡等の光学機器やコンピュータの演算処理能力)の著しい進歩がある。これは受容体のような稀少発現蛋白の細胞内動態を可視化し、単一細胞レベルで細胞内の各種生化学反応、機能蛋白の細胞内局在の可視化を可能にした。また、受容体の細胞内動態―特に局在、輸送などについての分子機構に関する研究が今後急速に展開する様相を示している。すなわち、従来受容体機能に関しては薬物の親和性や共役するG蛋白質の種類の違いばかりが強調されていたが、受容体蛋白の局在が細胞情報認識上重要な因子であることが認識されつつある。実際、生体の制御機構の側から考えると、限られた作動物質を用いて多様な情報伝達を達成しようとする場合、細胞内の局在といった要素は非常に重要であることは予測に難くない。受容体の細胞内局在と機能調節、病態、薬物作用との関連についてのより詳細な解析がなされ、新たなる細胞受容体調節機構が明らかとなることが期待される。また、遺伝子発現(トランスクリプトーム)レベル、タンパク質発現(プロテオーム)レベルにおける機能解析としてはマイクロアレイやプロテオーム解析が挙げられる。
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